Egidio
ドッシエ・仕組み解説・2026年

漏えいは、最初の一歩にすぎない

氏名と電話番号が漏えいしただけでは、詐欺は起きません。データがあなたの 手元を離れてから、電話が鳴って「何もかも知っている」ように見える台本が読まれるまでには、 日本で実際に確認されている、いくつかの明確な段階があります。

チェーン全体:5つの段階

1

漏えい

行政機関、病院、スポーツ団体、ホテル、通信会社——あなたが何も悪いことをしていなくても、 情報を預けた先が攻撃を受ければ漏えいは起こります。日本国内で確認された事例は 「日本の情報漏えい」のレポートで 整理しています。

2

流通:「闇名簿」というビジネス

日本では、漏えいした個人情報は「闇名簿」と呼ばれる形で「名簿屋→情報屋→実行犯」という 階層を経て流通することが、弁護士や捜査関係者への取材で報じられています。捜査関係者は 「サラピン(未使用)は1件1万円、使用済み名簿は1件300~500円」で取引されていると証言して おり、行政機関や企業からの漏えい、名簿屋どうしの転売、日本語のダークウェブサイトでの 販売など、複数の経路が指摘されています。正確な相場は取引や時期によって幅があり、 この数字も一つの報道が伝える目安にすぎません。

弁護士JPニュース、2024年10月12日(捜査関係者への取材)。2026年7月16日閲覧。
3

台本の構築

最も見えにくく、最も重要な段階です。実行犯は闇名簿の情報だけでなく、「アポ電」と 呼ばれる下見の電話で家族構成や資産状況、在宅時間を直接聞き出し、名簿の精度を上げます。 2026年に入ってからは、強盗や特殊詐欺の標的となる住宅・店舗の情報が「標的情報」として 複数の匿名・流動型犯罪グループの間で共有され、同じ対象が繰り返し狙われる実態も報じられて います。個人情報保護委員会自身も、自治会や同窓会、PTA、マンション管理組合などの名簿が 「闇バイト強盗・特殊詐欺」に使われないよう、啓発キャンペーンを展開しています。

個人情報保護委員会「STOP!名簿流出」/ALSOK・セコム、防犯コラム。2026年7月16日閲覧。
4

実行:日本で確認されている手口

電話は電力会社や通信会社のコールセンターを装って始まり、途中で「警察官」や「検察官」を 名乗る人物に転送されることが多いのが、日本のニセ警察詐欺に共通する構造です。SNSのビデオ 通話機能に誘導され、偽の「警察手帳」を画面越しに見せられる事例も報告されています。発信元 の番号が警察や検察の代表番号に偽装されているケースもあり、着信表示だけでは真偽を判断 できません(詳しくは番号スプーフィングの レポート)。宮城県警によれば、県内のニセ警察詐欺は2026年1〜5月の認知件数が前年同期比 12件増の49件、被害額は約2億314万円増の約3億5959万円に達しています。

宮城県警/毎日新聞、2026年6月18日。2026年7月16日閲覧。
5

最終的な要求

「口座が犯罪に使われている」「キャッシュカードを預からせてほしい」「安全な口座に移して ほしい」——現金の手渡し、キャッシュカードの受け渡し、指定口座への振込のいずれかで最終的な 被害が発生します。警察庁の確定値では、2025年の特殊詐欺被害額は1423億円、そのうちニセ警察 詐欺だけで1005億円(全体の約7割)を占めました。

警察庁、令和7年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)。2026年7月15日閲覧。

公式統計が裏付けること

27,832件 → 21,043件
特殊詐欺の認知件数は2025年が27,832件、2024年が21,043件。1年で約3割の増加。
警察庁、確定値(2024年・2025年)。2026年7月15日閲覧。
1423億円 → 718.8億円
特殊詐欺の被害総額は2025年が1423億円、2024年が718.8億円。ほぼ倍増。
警察庁、確定値(2024年・2025年)。2026年7月15日閲覧。
11,014件
ニセ警察詐欺の認知件数(2025年)。前年比ほぼ倍増し、被害額は1005億円に達した。
警察庁、確定値(2025年)。2026年7月15日閲覧。
約3億5959万円
宮城県内のニセ警察詐欺被害額(2026年1〜5月)。前年同期から約2億314万円増加。
宮城県警/毎日新聞、2026年6月18日。2026年7月16日閲覧。

被害者が語ること

「だまされた自分への屈辱感と歯がゆさが混在する」——電力会社のコールセンターを名乗る 電話から、警察官を名乗る人物への転送、そしてSNSのビデオ通話で「警察手帳」を見せられる という一連の流れで100万円をだまし取られた仙台市の男性は、当時を振り返りこう語った。 「まさか自分が」との思いと、「冷静さが大切。詐欺被害を我が事として捉えてほしい」という 教訓を、被害抑止の啓発活動を通じて伝えている。

毎日新聞、2026年6月18日。宮城県警のインタビューによる。

読売新聞は、京都府内で被害に遭った高齢女性が、 駆けつけた本物の警察官から「詐欺です」と説明されてもなお「だまされていない」「電話は本物の 警察官だ」と信じ込んだままだった事例を報じている。京都府警はこれを、権威を悪用した 「マインドコントロール」の一種と分析している。

誰が狙われているのか

51.3%

特殊詐欺の認知件数のうち、65歳以上の高齢者が占める割合(警察庁確定値)。

59.2%

特殊詐欺の被害額のうち、65歳以上の高齢者が占める割合——認知件数の割合よりさらに高い。

複合的な要因

資産の蓄積、在宅時間の長さ、相談相手の少なさが重なるが、闇名簿の情報精度がこの傾向をさらに強めている可能性がある。

重要な留保

警察や消費者団体は「若い世代も同様に狙われている」と繰り返し注意を促す。個人情報を使った台本の精度は、年齢を問わず判断力を鈍らせる。

🔒 これらの攻撃が効果を持つのは、まさに「本物の情報」を使って いるからです。ブラックリストやキーワード検出だけに頼る対策は、この種の手口には構造的に 弱い——発信元は「闇名簿」に載っていない新しい番号かもしれず、メッセージにも典型的な 詐欺のキーワードは含まれていません。手口を裏切るのは、通話からSMS、そしてSNSへと横断する 一連の行動パターンです。Egidioはこうしたパターンを見抜くことを目指しています。詳しくは Medusaの仕組みをご覧ください。

よくある質問

情報漏えいは自動的に詐欺被害につながりますか?

自動的でも即座でもありません。漏えいした個人情報はまず闇名簿として流通し、数か月後に 別のグループの手によって実際の電話やSMSに使われることもあります。ただし統計上の関連は 明確で、ニセ警察詐欺のような手口の急増は、大規模な漏えいが相次いだ時期と重なって います。

なぜ詐欺の電話が自分の名前や勤務先を知っているのですか?

その情報は、あなたが登録した何らかのサービス(行政、医療機関、スポーツ団体、宿泊予約 など)から漏えいし、闇名簿として売買された可能性があります。詐欺グループは複数の漏えい元の 情報を組み合わせて、偶然では説明できないほど具体的な台本を作ります。

なぜ高齢者が特に狙われるのですか?

警察庁の確定値では、特殊詐欺被害者の65歳以上が認知件数の51.3%、被害額の59.2%を 占めています。資産の蓄積、在宅時間の長さ、相談相手の少なさなどが要因として挙げられますが、 警察や消費者団体は「若い世代も同様に狙われている」と繰り返し注意を促しています。個人情報を 使った台本の精度は、年齢を問わず判断力を鈍らせます。

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